MBAで何を学ぶか その2

4つの主なカテゴリー
MBAでは、前回のコラムで書いたように、「戦略」、「リーダーシップ」、「マネジメント」、「スキル」という4つの主なカテゴリーで学んでいきます。今までのビジネス書の主流は、戦略とリーダーシップという2つに力点が置かれていました。戦略を立案するためのフレームワークが重要視され、その分析方法がもてはやされる時代が長く続いていたのではないかと思います。
ところで、最近になっていくらよい戦略でも実行が伴わなければ競争に勝っていけないという考えから、オペレーションの重要性に脚光が浴びつつあります。ある意味マネジメントの復権であり、業務を行うメンバーのスキル向上によるチーム力が大切になってきていると言えます。

企業の業績=戦略×オペレーション
という式で表すことができると思いますが、オペレーションの力はチーム力とマネジメントであり、その力を発揮させるための作戦が戦略であり、引っ張っていくのがリーダーシップという図式になるのではと思っています。

企業の業績を戦果と置き換えれば、兵法や軍略と実際の戦闘という関係に置き換えることができるでしょう。以前から、このような試みはなされており、「失敗の本質」は日本のビジネス書として、高名であり今なお読み継がれている名著です。孫子やクラウゼビッツといった兵書をビジネスに照らしたマニュアル本も多数発刊されています。

孫子とクラウゼビッツ」
最近出版された「孫子とクラウゼビッツ」を読みましたが、示唆に富む本でした。何よりも米陸軍戦略大学校のテキストであり、このような古典をしっかり研究しているアメリカという国の底力のすごさを感じます。結局技術は進歩しても人間は古代から大きく変わっているわけではなく、未だに古典から真理を導き出すことができることに気がつきます。

この本で自分なりに重要と感じた点はたくさんありますが、一例をあげると下記のようなポイントとなります。
・戦略にはレベルがあり、そのステージを意識しないと議論がかみ合わない
・戦闘の局面では無数の不確実性が存在し、理論どおり、シナリオどおりには展開していかない。その不確実性をどのようにマネージするかは永遠の課題である
・勝敗は事前に合理的に見積もらなければならない。勝利するために敵を超える物量を投入することが勝利の近道となる(物量が凌駕したからといって必ずしも勝利につながらない事実も目を背けてはならないが、多くの場合は物量を持っているほうが有利であることは間違いのない事実である)
・冷静に敵を知り、己を知ることが大切である。期待を分析に含めてはならない(日本企業がもっともやりやすい間違い)

経験から学ぶ
若い頃にMBAで学びましたが、本当の理解はいろいろな仕事を経験するにつれ、今ようやく身についてきたのではないかと思っています。勉強することは早いに越したことはなく、理論的に経験を制御することができるという利点はありますが、やはり腑に落ちる理解が得られるのは直面する難問を切り抜けた経験があってこそと、学んでから約20年を経て思います。

今の年になってようやくわかるのかもしれませんが、人生と言うのはいい経験もダメな経験もすべてがあってはじめて人生という酒の発酵が進むと思います。土台にあたる部分になるのでしょうが、ここが大きくならないとMBAで学ぶ4つのカテゴリーの勉強も育っていかないのではないでしょうか?良い経験ばかりで生きて来られればラッキーかもしれませんが、悪い経験は人の弱さ、弱い人の気持ちを知る上でプラスになるかもしれません。
「人生万事塞翁が馬」とは本当によく言ったものです。今回ノーベル賞をとられた山中教授の半生をお伺いして余計その意を強くしました。山中教授とはある縁から密かに応援してきていたのですが、今回の大快挙を心からお慶びする次第です。

米陸軍戦略大学校テキスト 孫子とクラウゼヴィッツ

米陸軍戦略大学校テキスト 孫子とクラウゼヴィッツ